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工事が始まりました(認知症PJ⑤)

昨年度から水海道さくら病院で実施している認知症への取り組みについて、連載で紹介しています。

前回は、現場の認知症ケア向上のための座学研修について紹介しました。今回は、ケア向上研修と並行して進められた認知症にやさしい環境づくりについてご紹介いたします。前半編として、認知症にやさしいデザインとはどんなものなのか、導入前に行なったアセスメントで明確になった環境上の課題にはどんなことがあったのかをお話しします。


認知症にやさしいデザイン

そもそも、認知症にやさしいデザインはどういうものですか?と疑問に感じる方も多いかもしれません。

認知症の人にとって、周囲の環境の影響はとても大きいと言われています。私たちも、不慣れな場所にいくと、不安になったり、時には道に迷ったりします。逆にホッと安心したり、自然に心が落ち着く環境を経験したこともあると思います。認知症の方々は、認知機能による補完する力が低下しているため、周囲の環境がわかりづらかったり、動き回りにくい配置になっていたりすると、その影響を強く受けてしまいます。不安になったり混乱したり、できることもできなくなったりします。

認知症にやさしいデザインが目指すことは、認知症の人たちの尊厳を保ち、その人らしく、できるだけ長い間自立して生活できることです。


今回の取り組みでは、英国スターリング大学認知症サービス開発センター(「DSDC」)で開発された認知症にやさしいデザインを取り入れています。DSDCは、イギリス北部スコットランドに位置し、認知症の人々の生活を向上させるための様々な専門的知見を有する大学付属の国際センターです。30年以上にわたり、世界各国の研究や実践例を集約し、認知症にやさしいデザインの重要性を広めています。

日本では、既に高齢者施設や老人ホームにて導入されています。また、福岡市では、DSDCの知見に基づいて「認知症の人にもやさしいデザインの手引き」を作成し、市内の公民館、区役所などに導入しています。病院として、体系的な認知症にやさしいデザインの導入は、水海道さくら病院が日本初となります。



水海道さくら病院の現状

水海道さくら病院は、1981年に開設した病院で、病床は93床あります。近年では、2015年の関東・東北豪雨による鬼怒川堤防決壊にて1階部分が浸水しましたため、1階部分の内装を替えています。しかしそのほかのエリアは長い間大規模な改修は行われておらず、施設の老朽化もあちこちに見受けられるような状況です。そのような中で、患者様の利用が少しでも快適であるように病院施設の工夫をしてきましたが、認知症の方への配慮という視点からの環境整備はあまり行ってきていませんでした。

そこで、認知症にやさしいデザインを導入する前に、スターリング大学DSDCが作成した認知症にやさしいデザイン評価ツールを用いて、院内の環境のアセスメントを行いました。今回は、アセスメントの結果で指摘を受けた事項から、一部のポイントを参考までにご紹介いたします。



案内表示の不足とわかりにくさ

認知症の方に対しては、記憶に頼らずに行動できるような配慮が必要です。その場の手がかりで自分の行きたい場所に行くために、案内表示は重要になってきます。以下のような例がアセスメントから判明しました。

必要とする場所(判断を必要とする廊下の分岐点や目的の場所など)に案内表示がなかった。

案内表示は比較的高い場所のみに設置されていた。認知症の方は探す能力が低下しているので、視野に自然に入りやすい高さの設置も必要。

案内表示は文字のみや絵のみの表記が多く、場所の手がかりとしては不足していた。文字と絵の併記が必要。

  

廊下の分岐点に病室やトイレなどの案内表示がない          



病室の入り口が明確でなく、部屋番号が分かりにくい



病室番号の案内表示は高い位置にある  



トイレの案内表示は、文字のみもしくは絵のみの表記。また比較的高い位置にある。



色使い(コントラスト)の工夫の不足

認知症の方は、記憶障害だけでなく、場所や空間を認識する力が低下しています。床の色に強いコントラストがあると、段差や穴として認識してしまうことがあります。床の色は全体で統一なものにし、視覚的な障害を減らすことで、転倒リスクを下げられます。

食堂の床が縞模様であったり、廊下のエリアにより床の色が極度に異なっていたりで、歩く際の視覚的な障害になっていた。

黒いドアマットは認知症の方には穴があるように見えるという報告がある。そのような黒いドアマットが各所に使用されていた。



エリアにより床の色が大きく異なっていた。



黒いドアマットが各所で使用されていた。


逆に、認知症の方に気づいて欲しいものや利用して欲しいもの(例えば、扉や手すり、便器、床と壁の境界など)は周囲とは色のコントラストをつけることで目立たせ、自然に気づけるようすることが大切です。

利用して欲しい扉と周囲の壁の間が同じ色使いであった(写真の例は診察室とトイレの扉)。これにより、場所の手がかりがなく、利用して欲しい扉が逆にわかりにくくなっていた。

床と壁も同じ色使いであったため、水平面と垂直面の境界線がわかりにくくなっていた。これは立体空間認識が低下している認知症の方にとっては移動しにくい環境であり、壁にぶつかるリスクがありました。

  

診察室の扉は、周囲の壁と同じであった。                 



トイレの扉も、周囲の壁と同じであった。


トイレ内は色づかいが同じで、便器が周囲に溶け込んでいた。      



床と壁の色のコントラストもあまりなかった。



過剰な情報

認知症の方はたくさんの情報から必要な情報を見つけ出す力や特定の情報に注意を向ける力が低下しています。情報が過剰であったり、視覚的にごちゃごちゃしていると、本当に必要な情報が埋もれてしまうだけでなく、混乱を引き起こす可能性もあります。

院内には、多くの貼り紙があり、それらが整理整頓がされていない箇所もありました。

受付周りには情報がたくさん貼ってあった。                 


照度の不足

認知症の方だけでなく、高齢者全般に言えることですが、眼の老化により、照度への感受性は低下しています。30代〜40代の人にとって十分な照度が、高齢者にとっては不十分なのです。認知機能の低下に加えて、照度不足による視覚情報の制限は、空間の理解の低下や不安・混乱を引き起こすことがわかっています。

照度計による計測では、院内は全体的に照度が低く、暗いことがわかりました。特に自然光が入ってこない空間は、照明の照度も十分ではなく、照明をつけても暗いことがわかりました。



照度が低く暗い廊下。


無機質な空間

病院は、どうしても無機質な空間になりがちです。認知症の方にとって馴染みのない空間は特に不安が募ります。また、場所や時間の認識が低下しているので、それらの理解を手助けできるような環境の工夫も求められます。

患者様の個人的なものをベッドの周囲に置くことで、その人にとって親しみのある空間を作ることができます。個人的なものをベッドサイドに置くことができていない例がいくつかありました。

病棟内や病室内に大きくてわかりやすい時計・カレンダーの設置があまりできていませんでした。

 

評価ツールによるアセスメントの結果を元に、その他の要素(優先度、費用)を考慮して、認知症にやさしいデザインの導入内容と導入箇所を検討しました。その結果、入院している患者様が入院中に落ち着いて過ごせる環境づくりにまずとりかかることにし、2階病棟を中心に導入することになりました。


内装工事が開始

改装工事を行うにあたり、認知症にやさしいデザインの要素を1つ1つ確認し、素材・色の選択や、院内動線の整理など詳細な検討を行いました。院内の認知症ワーキンググループのメンバーを通して、職員の意見を収集し、職員にとって重要なポイントも合わせて検討し、ワーキンググループを中心に決めていきました。認知症にやさしいデザインの導入は、環境の視点からの取り組みではありますが、その過程で認知症について、私たちの認知症ケアについても考える機会にもなりました。







次回は、認知症にデザインの導入後の新しい様子をご紹介します。

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